私の名前は、佐藤和子と申します。72歳になり、夫は十年前に他界し、今は一人、この家を守っています。二人の子供たちは、それぞれ家庭を持ち、時々、孫の顔を見せに帰ってきてくれるのが、何よりの楽しみです。子供たちは、いつも私のことを気遣い、「お母さん、何かあったら、お金の心配はしなくていいからね」と、優しい言葉をかけてくれます。その気持ちは、本当にありがたい。しかし、だからこそ、私は、子供たちに、これ以上の「迷惑」はかけられない、と強く思うのです。その思いが、私が70歳を過ぎてから「葬儀保険」に加入した、たった一つの、そして最も大きな理由です。きっかけは、長年の友人であった、鈴木さんのご主人が亡くなられた時のことでした。お通夜に伺うと、喪主を務める鈴木さんの息子さんが、憔悴しきった顔で、弔問客への対応に追われていました。後日、鈴木さんから聞いた話では、葬儀費用が予想以上にかさみ、ご主人の預金口座が凍結されてしまったため、急な支払いのために、親戚中を駆け回って、頭を下げてお金を工面した、とのことでした。「悲しむ暇もなかったわ…」と、力なく笑う彼女の顔を見て、私は、ハッとしました。これが、明日の我が身だったら、と。私の子供たちに、あんな思いをさせてしまうのか、と。私には、わずかばかりの貯金があります。しかし、それは、これから先の、いつ必要になるか分からない医療費や、介護費のために、どうしても手をつけておきたくない、大切なお金です。そして何より、私の死後、子供たちが、遺産相続の手続きなどで、心を煩わせることなく、ただ純粋に、私のことを偲ぶ時間を持ってほしい。そう、切に願ったのです。そんな時、新聞の小さな広告で、葬儀保険の存在を知りました。80歳まで加入でき、医師の診査もいらない。月々の保険料は、数千円。これなら、私の年金からでも、無理なく支払える。私は、すぐに資料を取り寄せ、加入を決めました。保険証券が届いた日、私は、長年背負っていた重い荷物を、ようやく下ろせたような、晴れやかな気持ちになりました。この一枚の紙切れは、私にとって、単なる保険ではありません。それは、愛する子供たちに、余計な心配をかけずに、胸を張って残りの人生を楽しむための「お守り」であり、そして、いつか私が旅立つ日に、彼らに贈る、最後の「ありがとう」という、愛情の形なのです。
子供に迷惑はかけられない、私が70歳で葬儀保険に加入した理由