葬儀の供え花には、その場にふさわしいとされる花の種類や色合いがあり、逆に、避けるべきとされるタブーも存在します。これらの選択は、故人への敬意と、弔いの場の神聖さを守るための、大切な文化です。まず、伝統的に、葬儀の花として最も多く用いられてきたのが「菊」です。特に、白い大輪の菊(輪菊)は、その高貴で清らかな佇まいから、古来より、弔いの花の象徴とされてきました。また、菊は、日本の皇室の紋章としても使われる、格調高い花であり、故人への最大限の敬意を表すのにふさわしいとされてきたのです。長持ちし、枯れる際にも花びらが散らかりにくい、という実用的な側面も、葬儀の花として重宝されてきた理由の一つです。この菊に加えて、「百合(ゆり)」や「カーネーション」といった、白色の花も、その清らかさから、よく用いられます。しかし、近年では、こうした伝統的な「和花」だけでなく、「洋花」も積極的に取り入れられるようになり、供え花のバリエーションは、大きく広がっています。例えば、トルコギキョウ、胡蝶蘭、カラー、ストック、デンファレなど、白色や淡い色合いの洋花を組み合わせることで、よりモダンで、柔らかな印象の祭壇を演出することが可能です。故人が女性であった場合や、家族葬などの小規模な葬儀では、故人の好きだった花や、その人柄をイメージさせる、淡いピンクや紫、水色、黄色といった、優しい色合いの花を取り入れることも増えています。ただし、どのような場合でも、避けるべきとされる花がいくつかあります。その代表格が、「薔薇(ばら)」です。薔薇は、その美しさの一方で、「トゲ」を持っています。このトゲが、殺生や傷つくことを連-想させるため、仏事では一般的に避けられます。また、その華やかな香りや、恋愛を象-徴するイメージも、弔いの場にはふさわしくないとされています。同様に、椿の花のように、花が首からポトリと落ちるものは、「死」を直接的に連想させるため、縁起が悪いとして避けられます。そして、赤やオレンジといった、あまりにも鮮やかで、派手な色合いの花は、お祝い事を連想させるため、基本的には用いません。伝統を尊重しつつも、故人らしさを表現する。その繊細なバランス感覚が、現代の供え花選びには、求められているのです。
葬儀にふさわしい花、避けるべき花