2008年に公開され、日本映画として初めて米アカデミー賞外国語映画賞を受賞した映画「おくりびと」。この作品が、日本の葬儀文化、そして死生観に与えた影響は計り知れません。それまで、多くの人々にとって「死」は忌むべきものであり、葬儀の裏側で何が行われているかを知る機会はほとんどありませんでした。納棺師という職業も、その存在すら知らない人が大半だったのです。この映画は、そんなタブー視されがちだった「死」に携わる仕事に光を当て、その尊厳と重要性を、美しい映像と感動的な物語を通じて社会に知らしめました。映画の中で、主人公がご遺族の前で、静かで流れるような美しい所作で故人の身支度を整えていく「納棺の儀」のシーンは、多くの観客の心を打ちました。それは、単なる遺体の処理ではなく、故人の人生への敬意と、遺された家族への深い思いやりに満ちた、神聖な儀式として描かれていました。この映画の公開後、葬儀業界には大きな変化が訪れました。まず、「納棺師」という職業への関心と理解が飛躍的に高まり、この道を志す若者が増えました。そして、それ以上に大きな変化は、一般の人々の意識の中に「納棺の儀に立ち会うことの価値」が根付いたことです。それまでは葬儀社に任せきりだった納棺というプロセスに、遺族が積極的に関わるようになり、「故人らしい、温かいお別れをしたい」というニーズが明確になりました。映画は、葬儀を「別れの儀式」から、「故人の人生を称え、感謝を伝えるセレモニー」へと、その価値観を転換させるきっかけを作ったのです。もちろん、映画で描かれたのは納棺師の仕事の理想的な側面であり、現実はより過酷な場面も少なくありません。しかし、「おくりびと」が示した、死と真摯に向き合うことの尊さは、形式化しがちだった日本の葬儀に、人間的な温かみと深い感動を取り戻す、大きな一歩となったことは間違いないでしょう。
映画おくりびとが変えた葬儀の形