母が長い闘病の末に息を引き取った時、その顔には、病との壮絶な闘いの跡が色濃く残っていました。痩せてしまった頬、色のない唇。それは、私の知っている、いつも明るく元気だった母の姿とは、あまりにもかけ離れていました。私は、この辛そうな顔が母との最後の記憶になってしまうのかと、胸が張り裂けそうでした。葬儀社の担当者の方が「納棺の儀を行いますので、よろしければお立ち会いください」と言ってくださった時も、正直なところ、私はためらいました。しかし、父に促され、おそるおそるその場に立ち会うことにしました。部屋に入ってこられたのは、物静かな佇まいの女性の納棺師の方でした。彼女は、まず母の体に深く一礼すると、私たち家族に「お母様は、生前どのような方でしたか」と、優しい声で尋ねました。私たちは、堰を切ったように、母の思い出を語り始めました。花が好きだったこと、料理が上手だったこと、いつも笑顔を絶やさなかったこと。納棺師の方は、私たちの話に静かに耳を傾けながら、まるで眠っている母に語りかけるように、一つひとつの所作を丁寧に進めていきました。温かいお湯で体を清め、母が好きだったという薄紫色の着物を着せ、そして、お化粧を施していく。ファンデーションで肌の色つやが戻り、チークで頬に血色がさし、口紅で唇が優しく彩られていく。その過程は、まるで魔法のようでした。すべての支度が終わった時、そこにいたのは、苦しみの表情を浮かべた母ではなく、私が知っている、あの穏やかで美しい母の寝顔でした。「きれいだね」。誰からともなく、そんな声が漏れました。その瞬間、私の心の中にあった、後悔や自責の念が、すうっと溶けていくのを感じました。私たちは、母の美しい寝顔に、心からの「ありがとう」を伝えることができたのです。あの日の納棺師の方の、静かで尊い仕事ぶりを、私は一生忘れないでしょう。