85歳を過ぎてからの葬儀費用の準備において、預貯金だけで備えるのか、それとも保険を活用するのかという議論は、終活の現場でよく交わされるテーマです。結論から言えば、この両者をうまく使い分けることこそが、最も賢明なリスク管理となります。まず、預貯金のメリットは、使わなければそのまま遺産として残る点と、用途が限定されない点にあります。しかし、最大のリスクは金融機関の口座凍結です。名義人が85歳で亡くなった際、遺族が葬儀費用として現金を引き出そうとしても、相続人全員の同意や戸籍謄本の収集が必要となり、数週間から数ヶ月の時間を要することが珍しくありません。葬儀の支払いは通常、式が終わってから数日以内に行わなければならないため、預貯金があっても「今すぐ使える現金がない」という事態に陥る可能性があるのです。そこで葬儀保険の出番となります。葬儀保険は、受取人が請求を行えば数日以内に指定口座へ現金が振り込まれます。85歳で加入する場合、毎月の保険料は高くなりますが、その分「即時性」という最大のメリットを享受できるのです。また、保険金には相続税の非課税枠という大きな税制上の利点があります。500万円に法定相続人の数を乗じた金額までは相続税がかからないため、単純に預貯金として持っているよりも、保険という形で遺す方が、節税対策としても有効です。85歳という年齢を考慮すると、多額の死亡保障は必要ありません。葬儀一式と会食、返礼品の費用をカバーできる100万円から150万円程度の保障額を設定するのが一般的です。一方で、保険には掛け捨てのリスクが伴います。長生きをすればするほど、支払った保険料の総額が保険金額を超えてしまう「逆ざや」の状態になることがあります。しかし、これを「損」と捉えるのではなく、いつ何時訪れるかわからない万が一の事態に対して、家族が路頭に迷わないための「安心料」として割り切る考え方が必要です。理想的な形は、当面の生活費や予備費として預貯金を一定額確保しつつ、確実かつ迅速に発生する葬儀費用のみを保険でカバーするという分担です。85歳からの保険加入は、残された資産をいかに効率よく、そして確実に家族へ引き継ぐかという戦略的な選択でもあります。加入前に、現在持っている金融資産の内訳を整理し、自分亡き後に家族がどのような手続きでその資産にアクセスできるかをシミュレーションしてみることで、葬儀保険の必要性がより鮮明に見えてくるはずです。
高齢者向け葬儀保険と預貯金の賢い使い分け