敬語は声に出す言葉だけではなく、文字として書くものにも存在します。葬儀において最も頻繁に文字を書く場面である「香典の表書き」と「芳名帳への記帳」は、いわば「文字による敬語」の極みといえます。まず香典の表書きですが、これ自体が故人や宗教に対する敬意を物理的に表現するものです。仏教では「御香典」、神道では「御玉串料」、キリスト教では「御花料」と、宗教に合わせた正確な用語(敬語)を薄墨で丁寧に書きます。薄墨には「悲しみのあまり、涙で墨が薄まった」あるいは「急なことで墨を十分に磨れなかった」という意味があり、これ自体が遺族に対する控えめな謙譲の表現となります。自分の氏名を書く際も、崩しすぎず、読みやすい楷書で書くことが、事務作業を行う遺族への配慮という名の敬語になります。次に、会場の受付で行う芳名帳への記帳です。ここでは、「株式会社〇〇」と社名を略さず書き、「役職名 氏名」を正確に記入します。住所も都道府県から省略せずに書くのが、正式な場にふさわしい丁寧な姿勢です。もし、代理で参列した場合は、本来参列すべき人の名前の横に「(代)」と書き、自分の名前も添えます。このとき、心の中で「お名前をお借りします」という謙虚な気持ちを持つことが、文字の勢いにも現れます。また、最近では受付で「お名刺を頂戴できますか」と言われることもありますが、その際は「〇〇の代理として参りました△△でございます。お名刺を失礼いたします」と言って差し出します。名刺の余白に「弔」の文字を小さく書き込んだり、右肩を少し折ったりする習慣もありますが、これも「急ぎ参じました」という謙譲のサインです。文字は言葉以上にその人の品性を映し出します。ゆっくりと、心を込めて書かれた文字は、それだけで遺族に対する慰めとなり、故人への最後の敬礼となります。流麗な達筆である必要はありません。一画一画を疎かにしない誠実な筆致こそが、葬儀という場における最高の「文字の敬語」となるのです。
香典の表書きや芳名帳への記帳における文字の敬語